「愛と幻想のファシズム」は新世紀エヴァンゲリオンのモチーフになった作品だということで気になっていたが、ようやく読破した。
結論を言うと、この作品とエヴァは別に似ていない。
もちろん言われているように何人かの登場人物の名前はエヴァで流用している。以下、箇条書きで記述する。

鈴原冬二
主人公。狩猟は人間の最大の喜びと主張し、農耕社会から発展した日本を嫌い、政治結社「狩猟社」で人間社会を狩猟社会に戻すことを目指す。ヒトラーを部分的に評価している。
エヴァのトウジと同じ名前だが、人格は全く異なる。碇ゲンドウの方が近いが、ゲンドウともだいぶ違う。ゲンドウは妻のユイ復活のためにネルフを率いているが、冬二は狩人としてアメリカを狩るために戦っている。

相田剣介
主人公の相棒。冬二を政治活動に巻き込んだがその後は精彩を欠く。ある時に冬二にナチスのゲッベルスのようになれと言われ、狩猟社の宣伝部担当になってからは目覚ましい活躍をする。しかし最後は…。
エヴァのケンスケと同じ名前で、人格も割と近い。ダメ人間だが冬二と腐れ縁で付き合っている所は通じる。

洞木紘一
右翼の元編集者。物語前半は冬二の参謀で狩猟者のナンバー2ポジションだが、凄腕ハッカーの飛駒が出て来てからは影が薄くなる。
個人的に「日本はなぜアメリカに降伏したのか、陛下が殺されたかもしれないのに!」という美しい台詞が印象に残った。
洞木ヒカリと名字が同じで、性別は違うが真面目な委員長的ポジションなのは同じ。

山岸良治
クロマニヨンという狩猟社が擁する武力集団を率いる有能な若手。
サターンのエヴァゲーの山岸マユミと名字が同じだが、私はこのゲームはやったことがないのでわからん。

時田史郎
序盤の協力者で関西弁のおっさん。用済みとなって早々と粛清される。
エヴァの時田シロウと同名で、道化みたいなポジションなのも同じ。

エヴァと名前がかぶってるキャラは以上で、トウジ以外は性格はある程度は一致する。
それ以外の共通点としては、この作品に出てくる片山という医師が「人は他人から見た自分も認めなければならない」といったことを言うが、これはエヴァに強く影響を与えているのは間違いない。

が、エヴァとの共通点は以上で、挙げた点を除くと全く違った系統の作品である。これより同じ村上龍の「五分後の世界」の方がずっとエヴァと似ていると思った。

この作品のコンセプトはただ1つ、「反米」である。80年代の作品で日米貿易摩擦が叫ばれた時代で、まだ安保闘争の空気も残り、反米こそ正義みたいな空気があったのだろう。思考停止した反米主義が全編にわたって描かれ、現代人から見るとバカみたいとしか思えなかった。しかもその反米の根源は「富める欧米に対する嫉妬」であり、作中でそう公言している。

作者の村上龍氏は右派であり、YouTubeの動画でも原発再稼働容認派であることが分かり(再生数少ないけど…過去の人だね)かなりの保守に見える。この作品でも左翼政党や労組を百姓だと徹底してこき下ろしていて、そこは留飲は下がる…が、村上龍は左翼根性を日本人の本質として、日本を徹底的に見下して日本には世界に誇る文化が無いとボロクソに叩いている。
日本を卑下する村上龍には愛国心などさらさらなく、むしろ左翼過激派の原理主義者、イスラム国やアルカイダに通じるように感じた。彼の理想とする国は北朝鮮としか思えない。アメリカと戦争すると息巻いている金正恩と全く変わらない。作者は石原莞爾をリスペクトしているようだが、冬二は石原莞爾と対立しアメリカに勝てない喧嘩を売った東条英機の方がずっと近い。

物語の最初に冬二がアニメーションを見て、これは奇形児が己の欠けた部分を補うために作るものだと貶している。この作品がアニメのエヴァの元だと言われるのは不快極まる。村上龍はアメリカはコカコーラやマックのような世界に普及したグローバル文化があるのに、日本にはその程度の文化も無いというが、日本には優れた自動車・家電製品・ゲーム・アニメなど、世界を魅了した文化が存在するのだが。無知な村上龍は何も知らないのだろう。まぁこの作品の成立が80年代ではなくもっと後であれば、日本のゲームやアニメが世界を席巻していることに気づいたかもしれないが。ともかく「狩猟だけが素晴らしく、他の文化は何の価値も無い」という冬二の主張には全く共感は覚えなかった。

物語としては鈴原冬二が日本を変えるために、手段を選ばずに政権奪取を目指すという政治経済をモチーフにしたピカレスク物語なのだが、千ページあるのに「巨大なる祈り」で政権奪取が見えた辺りで終わってしまう。ラスボスのジェローム・ウィッツと冬二が会うこともない。せめて実際に政権を取るところまで書けや。つーか勝利の決定打が飛駒の作った3DCGの捏造映像とか陳腐すぎる。飛駒の能力がチートすぎてなろう系かと思う。

この作品は作中で名前が挙がる「世界最終戦論」と「時計仕掛けのオレンジ」の受け売りみたいなところがあるので、その2作品に触れて、この作品は別に読まないでも全く構わないと思う。エヴァファンだから読むなんてしなくていい。それよりスキゾ・エヴァンゲリオンとパラノ・エヴァンゲリオンを読むべきだろう。