少し気になっていた本だが、ようやく読み終えた。
内容は主人公が日本がポツダム宣言を受諾せずに徹底抗戦して、連合国に分割統治されてしまった世界に転移してしまう話。小松左京の「地には平和を」に似た設定である。
この作品も地には平和をと同様、どう考えてもSFなのだが、村上龍はSFを蔑視しているのか知らないがSFを称してない。

村上龍はアメリカに依存する現代のふぬけた日本に憤りを感じていてこの作品を描いたのだろう。日本人は史実の中途半端な敗北ではなく、徹底的に叩きのめされて目が覚めた方が良かったのだというメッセージをひしひしと感じる。だからこの作品に出てくる、日本を称するアンダーグラウンドの「日本人」達はみな凛としていて、とても魅力的に描かれている(皇族はスイスに亡命しているという設定)。現実的には国際的に孤立しているアンダーグラウンドがあのような近代的な社会を築けるわけがないと思うのだが。

特筆すべきはワカマツという音楽家だろう。彼が語る「モーツァルトを聴いてなお作曲しようとする者は傲慢だ。ただし既存の物からの『組み合わせ』において新たな創造ができる可能性はまだある」というクリエイター論は心に残る。これは現代の創作論にも通じる普遍的な真実と言える。

なお庵野秀明は村上龍に大きな影響を受けたそうだが、ワカマツはカヲル君でオールドトウキョウは旧東京の元ネタのように感じた。一番影響を受けているのは「愛と幻想のファシズム」らしいけど。

作中では地上戦シーンが何度か描かれるが、その描写は非常にグロテスクでスプラッタで、耐えられない人も多いと思う。読んでいて気分が悪くなることが何度かあった。これが戦争の現実なのだろうが。

この作品の最大の欠点は最後「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わってしまうこと。主人公が元の世界に帰って終わりで良かったと思うんだが。非国民村の住民が能を演じる滑稽な描写の後にあっけなく終わるのでなんかしらけてしまう。

あと改行が少なくて読みづらかった。ただそのおかげで本が295ページとコンパクトに収まっているのは良かったけど。空行だらけだと無駄にページ数多くなるからね。